2025年1月24日、MZCC省エネ・再エネ部会は、MZCC会員企業である株式会社フロンティア・スピリットによる焼却炉の排熱冷却水を使用した小型バイナリー発電の取り組みを視察しました。
視察には、エネルギー会社、電気設備会社、電気計測会社、土木建築会社などMZCC会員企業5社と、3つの地域・学術会員団体から計11名が参加し、プロジェクトの内容や取り組みをはじめた経緯、今後の活動方針などについて説明を受け、2024年1月に竣工された今井工場の新焼却炉を見学しました。
こちらで採用されている小型バイナリー発電装置は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「脱炭素社会実現に向けた省エネルギー技術の研究開発・社会実装促進プログラム」に採択された、世界最高の発電効率を誇る「有機ランキンサイクル(ORC)発電システム(5kW級)」とのことです。
バイナリー発電とは?
バイナリー発電とは、熱水や蒸気の力で、水よりも沸点の低い代替フロンなどの作動媒体を沸騰させ、その蒸気でタービンと呼ばれる回転式の原動機を動かす発電方式です。「バイナリー」は英語で「2つの」という意味を持ちます。熱水や蒸気で作動媒体を沸騰させるサイクルと、作動媒体がタービンを回転させるサイクルという2つの熱サイクルを用いることから、バイナリー発電と呼ばれます。
有機ランキンサイクル(ORC:Organic Rankine Cycle)発電システムとは?
ORC発電システムとは、蒸気サイクル(ランキンサイクルシステム)の作動媒体を、一般的な水よりも低沸点の媒体(フロンガスなど)に変更することで、中低温の熱源で蒸気を発生させ、タービン(回転式の原動機)を回すシステムです。温泉や地熱を利用したバイナリー発電、あるいは小型木質バイオマス発電における熱電供給システムなどとして活用されています。
馬渕工業所HPより
プロジェクト概要
フロンティア・スピリットは、2024年1月に24時間稼働の焼却炉を新設しました。この焼却炉では、800~1050℃の高温で、一日あたり最大48トンの廃棄物を焼却しています。焼却炉のキャスター(レンガ部分)を保護するため、一時間あたり約30トンの水で焼却炉の壁(レンガ部分と鉄の間)を冷却しています。この冷却により、約97℃のお湯が発生します。「この熱湯をそのまま廃棄してしまうのはもったいない、この未利用熱を有効活用しなければ」という着眼点からこのプロジェクトがはじまりました。
焼却炉から生み出される約97℃の熱湯と、年間を通して約13℃に保たれている井戸水、そして株式会社馬渕工業所が東京大学、京都大学、イーグル工業株式会社と共に開発したバイナリー発電機を用いて、出力約5kWで24時間発電がおこなわれています。
この発電機が生み出す電力量は、一般家庭8世帯分の電力需要に相当し、中小企業の場合、災害時などで停電が発生した際に、ビジネスに最低限必要な電力量を確保することが可能になります。フロンティア・スピリットは、今回の実証実験期間中、馬渕工業所製の移動型蓄電池(100V、2000W)を活用し、建設現場での照明などに電力を使用しています。
このバイナリー発電では、焼却炉からの熱湯と井戸水の温度差を利用し、フロンが気化と液化を繰り返すことで、スクロール式膨張機(タービン)が回転し電力を発生させています。株式会社馬渕工業所のタービンは、従来型のプロペラ式ではなく、回転しやすい渦巻き状のものが回転するイメージで、それが他社との性能差を生んでいるとのことです(図1)。
これまで大量の水が必要とされ、困難であった小型バイナリー発電の成功には、この世界一の回転効率を誇るタービンの開発製造技術があります。また、馬渕工業所の拠点は宮城県仙台市であり、東日本大震災の経験がこの発電機を開発するきっかけとなりました。
図1. バイナリー発電の仕組み
フロンティア・スピリット提供資料より
プロジェクト経緯
このプロジェクトは、フロンティア・スピリットが、24時間稼働の新焼却炉の建設に合わせ、恒常的に発生する未利用熱の利用を進めるためのパートナーを環境関連のイベントで探していたところ、馬渕工業所と出会ったことがきっかけではじまりました。
双方のニーズが合致したことで、NEDOの実証実験の場として今井工場の新焼却炉を提供することとなり、採択後、2024年12月から実証実験の第一号となりました。
今後の取り組みについて
今回の実証実験は3月で終了しましたが、フロンティア・スピリットは2025年度に別のバイナリー発電機を導入することを予定しており、実証実験は同社にとって非常に良い経験となりました。また、現在バイオマスボイラーの試験的導入もおこなっており、今後、焼却炉の廃熱を用いた農作物のハウス栽培などの実施も検討しています(図2)。
図2. 地域循環共生圏への取り組み
フロンティア・スピリット提供資料より
最後に
今回のMZCC省エネ・再エネ部会では、単純焼却から脱却し、排熱のエネルギー利用に向けた第一歩を踏み出したフロンティア・スピリットの取り組みについて学びました。
視察を受け入れていただいた株式会社フロンティア・スピリット様ならびに視察にご参加いただいたMZCC会員のみなさまに感謝申し上げます。
関連情報
- フロンティア・スピリット「バイナリー発電機の設置について」2024年12月19日 プレスリリース
執筆担当:信州大学グリーン社会協創機構 石鍋